ユルく笑えてジンワリ泣ける【映画レビュー】『モヒカン故郷に帰る』あらすじ&感想(ネタバレ無し)
2020/04/02
TSUTAYA DISCASのレンタルDVDで映画『モヒカン故郷に帰る』を観たので、その鑑賞記録です。
画像:映画『モヒカン故郷に帰る』公式ツイッターより
あらすじ
田村永吉(松田龍平)は広島からバンドデビューを夢見て上京し、パッとしないデスメタルバンド「断末魔」でボーカルを務めています。
画像:映画『モヒカン故郷に帰る』公式ツイッターより
今日も“モヒカン頭”でステージで歌ってますが、デスメタルなのにテルミンを使うような不思議なバンドのせいかファンもそれほど多くはなく。
本番後の楽屋ではメンバーもネガティブな様子で、年金や保険といった現実的な将来のことについて話すような始末。
それでも永吉は、
「俺は俺なりにいろいろ考えたんだけど・・・やっぱり何だかんだあって・・・皆の言うとおりだと思う」
と、セリフとは裏腹に実は何も考えてはいない様子で、のらりくらりと無責任な言葉でお茶を濁すだけです。
部屋に戻ると、恋人の会沢由佳(前田敦子)が眠っていました。
二人は同棲というよりも、永吉が由佳のヒモのような関係で一緒に暮らしていたのですが、由佳のお腹には永吉との間の子供がいました。
「行くんでしょ?・・・ねぇ明日、行くんだよね?」
と念を押す由佳に、永吉はベランダで育てているパクチーに水をやりながら、
「あぁ・・・うん・・・」
とハッキリしない様子。
二人は子供ができたことをきっかけに結婚を決めて、明日は永吉の両親にその報告するために故郷の広島へ一緒に帰ることにしていたのです。
翌日、けっきょく予定通りに広島へ向かって船に乗る二人。
画像:映画『モヒカン故郷に帰る』公式ツイッターより
永吉が故郷の瀬戸内海に浮かぶ島に帰るのは、実に7年ぶりのことです。
一方、栄吉たちが向かっている島はお祭の最中で、その出し物として高校の吹奏楽部の生徒達が“矢沢永吉”の曲を演奏していました。
そしてその指揮しているのが、部のコーチをしている永吉の父親の田村治(柄本明)。
彼は若い頃から筋金入りの“矢沢永吉”ファンで、「YAZAWAは広島県民の義務教育です!」と生徒達に『アイ・ラヴ・ユー、OK』を無理やり演奏させているのでした。
その頃、ようやく永吉の実家にたどり着いた二人が最初に顔を合わせたのは、永吉の弟の浩二(千葉雄大)ですが、何年も顔を見てなかった兄の突然の帰宅にビックリ。
ちょうどそこへお祭の後の宴会で酔っ払った父親(柄本明)と、それにあきれながらも介抱する母親(もたいまさこ)とが一緒に戻ってきました。
酔った父と突然現れた長男とでドタバタしながらも、ようやく落ち着きを取り戻して居間のちゃぶ台で顔を付き合わせる父母と永吉と由佳の四人。
画像:映画『モヒカン故郷に帰る』公式ツイッターより
それぞれが何となく居心地の悪さを感じる中、永吉はようやく結婚の報告と、由佳のお腹には既に子供がいるということを告げました。
それを聞いた父親は突然の話に最初は腹を立てたのですが、すぐに思い直してたくさんの知合い達に連絡を取ってお祝いの宴会をすることに。
画像:映画『モヒカン故郷に帰る』公式ツイッターより
皆に祝福されておめでたい雰囲気の中、すべてが丸く収まったように思えたのですが、その宴会の後のことです。
父親が急に倒れて、救急車で病院へと運ばれることに。
そして病院で医者から家族に告げられた言葉は、父親が末期の肺ガンで余命僅かという宣告だったのでした。
感想
瀬戸内海の戸鼻島という架空の島とは言え、広島が舞台となる作品ということで、主人公と同じく広島出身の私としてはそれだけで気になってた映画ですが。
父親が根っからの矢沢永吉のファンで、母親が広島カープのコアなファンという設定だけで、既にチョット笑ってしまいます。
こういう地方ものの作品は、その地を知る者としては雰囲気のようなものや方言に違和感を感じてしまうこともあるんですが、これについてはほとんど気になりませんでしたね。
そういった意味では、監督の演出や役者さん達の演技が上手いという印象で、全編オール広島ロケというのも功を奏したなって感じです。
ストーリーは、物事をあまり深く考えずに何となく生きてるような現代風の若者が、彼女の妊娠をきっかけに故郷へ帰ったものの、幸か不幸かそのタイミングで親の癌が発覚するという顛末を描いてるんですが。
かといって重苦しい雰囲気はさほど感じさせずに、登場人物達それぞれの思いや少しユニークな行動を淡々と映していってるんですね。
そして私達観客のほうは、その様子を観てナゼかチョット笑ってしまうという、重さと軽さの間のところをフワフワとした感じで表現してる面白さを感じさせられましたよ。
主役の松田龍平は、こういった空気感を出すのが実に上手くて、役にピッタリといった感じ。
さらに父親の柄本明も、命に関わる病気になる役でありながら、悲壮感よりも可笑しさを漂わせる演技がスゴく良いです。
ちなみに弟役の千葉雄大は出番がやや少なめなんで、ファンの人は彼を目当てに観るとガッカリするでしょうね。
まぁ、あまり話に大きな起伏が無いうえに2時間の長尺なんで、もしかしたら退屈してしまうかも知れませんが、島の日常風景をノンビリと味わうような気持ちで観るのがいいと思います。
そしてこの映画で、親子の関係や人の命といったことにも、少しだけ思いを巡らせてみるのも悪くないかと。
作品データ
●監督・脚本
沖田修一
●出演者
松田龍平
前田敦子
柄本明
もたいまさこ
千葉雄大
●日本公開年
2016年
●上映時間
125分