コミカルでも笑うに笑えない【映画レビュー】『日本で一番悪い奴ら』あらすじ&感想(ネタバレ無し)
2017/02/14
TSUTAYA DISCASのDVDレンタルで映画『日本で一番悪い奴ら』を観たので、その鑑賞記録です。
画像:映画.comより
あらすじ
大学の道場で柔道の稽古に励む諸星要一(綾野剛)は、指導教官に呼ばれて彼の元へ。
神妙な面持ちで正座をして話を聞く諸星は、北海道警察から採用の打診があったことを知らされます。
公務員としての就職の内定に喜ぶ教官でしたが、「補導されたことがあるんで・・・」と警察官になることに躊躇する諸星。
しかし柔道大会の優勝を狙って諸星の柔道の実力を必要とするという道警の要望を聞かされ、それに応えて一芸採用といった形で警察官になった彼は、やがて柔道での活躍が認められて刑事部機動捜査隊へと異動になります。
画像:映画.comより
日常的に暴力団を相手にする機捜は一癖も二癖もある刑事ばかりで、これまで警察官としての職務よりも柔道中心の生活だった諸星はすっかり無能な新人扱いを受ける毎日。
パートナーの先輩刑事にも、お茶くみなどの雑用や「写経」と呼ばれる捜査資料の書き写しといったデスクワークばかりやらされていました。
そんなある日、先輩刑事の村井(ピエール瀧)は「何のために刑事になった?」と諸星に問います。
緊張しながら初々しい様子で「公共の安全を守り、市民を犯罪から保護するためです」と答える彼に、笑いながら村井は「青年、メシ行くか?」と夜のすすきのへ誘うのでした。
画像:映画.comより
すすきののキャバレーに諸星を連れて行った村井は、女性を周りにはべらせて先輩風を吹かせながら酒のグラスを片手に機捜での捜査方法について語ります。
「安全な社会にしようと思ったら、飛び込みゃいいんだよ」
そう言って裏社会に足を踏み入れることをほのめかしながら、さらにその世界での情報を得るためのスパイになる人間を見つけることを勧める村井。
真面目だけが取り柄のような諸星は、何の疑いも無くその教えに従い、すぐに自分の名刺を作って裏社会につながりのありそうな連中に配り始めます。
まるでバラ撒くように名刺を渡し、挙句の果てにステッカーまで作ってアチコチに貼っていく様子は、熱心と言うよりも滑稽にさえ見えましたが、やがてその行動はエスカレートして越えてはならない一線を越えていくのでした。
何とかして点数の高い事件をモノにしようと焦った諸星は、ようやく掴んだ情報を元に、捜査令状も無いまま暴力団組員の自宅へ押しかけて男を逮捕し、隠し持っていた銃と違法薬物を差し押さえます。
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初めての手柄に喜ぶ彼でしたが、その違法捜査と言えるやり口は暴力団幹部の逆鱗に触れることとなり、彼は単身で幹部の元へと話をつけに行くことに。
現れた幹部の黒岩(中村獅童)とのタイマンでの話し合いになり、一歩も譲らない二人でしたが、ひょんなことから意気投合して打ち解けた黒岩は、諸星のスパイになりたいと提案してきます。
けっきょく兄弟分として仲間になった黒岩をスパイとし、さらに黒岩の紹介で山辺(YOUNG DAIS)という男も加えて、二人のスパイを使った捜査で成果をあげていく諸星。
画像:映画.comより
一方で、そんな捜査を諸星に仕込んだ村井は未成年との淫行の容疑で逮捕され、これまで彼が幅を利かせていた街を諸星が牛耳るようになります。
署内ではエースと呼ばれ、街の誰もが彼に一目を置き裏社会でも怖いもの知らずになった諸星は、かつて持っていた正義感も使命感も忘れ、ただひたすら刑事としての成績を上げるために悪の道へと転がり落ちて行くのでした。
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感想
この映画は『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(著:稲葉圭昭)という小説を原作として、2002年に起きた「稲葉事件」をモチーフとしています。
「稲葉事件」というのは、北海道警察の警部だった筆者が、覚せい剤の使用や銃刀法の違反等で捕まった事件でして。
さらに裁判中の筆者の証言によって、道警の組織ぐるみによるやらせ摘発やおとり捜査が明るみに出て、その後警察の上層部による捜査費用の裏金化までも暴露され、当時は北海道を中心に大きな問題になりました。
ですから作品冒頭に「フィクションです」と字幕が出ますが、部分的な細かい脚色はあっても、この映画の話全体としてはほぼ事実のようですよ。
大きな組織が腐っていくのは当然で、特に警察のように末端で犯罪者と密に接しやすい組織はそこから腐りやすいというのは、世間でも暗黙の内に認識されているコトだとは思いますが。
本作のように、これだけあからさまに物語としてハッキリ突きつけられると、やっぱり気分が悪いように感じましたね。
ストーリーは、警察官が銃の摘発を中心とした職務のノルマ達成のために悪事に手を染めていくというお話なんで、舞台は警察になっていますが、まぁつまりはヤクザ映画です。
結局、チンピラが自分の地位やシノギを上げるために手段を選ばず悪事を重ねてのし上がっていくというのと同じ流れなんで、その意味では筋書きに新奇性は感じられないんですが。
とはいえ、ノンフィクションに近い形で警察の不祥事を詳細に描いている点と、そして何より出演者の好演が印象的でしたね。
綾野剛さんは主役だからもちろんとは言え、あまり有能ではないながらも真っ直ぐな正義感を持つ警察官が、その真っ直ぐさを暴走させて一気に落ちていく様子を見事に演じていますよ。
特に、命の危険にさらされたときの普段の虚勢を失ったヘタレな様子とか、お金や仲間や仕事の地位を失った後のボロボロな有様とか、そういった惨めな主人公を演じたシーンが良かったです。
他にも、ふてぶてしさに相変わらずの安定さを見せるピエール瀧さんや、ラッパーが本業とは思えないYOUNG DAISさんの演技。
そしてお笑いコンビ「デニス」の植野さんは、最近チョイチョイ胡散臭い外人役として重宝されるようになりましたが、今回もピッタリとはまった役どころで楽しませてくれましたね。
演出的にコミカルなシーンもありましたが、話の性質上あまり素直に笑えない気もして、映画の最後に字幕で表示される事件の実際の顛末の影響もあり、観終わったときの気持ちはあまり良くありませんでしたが。
役者さん達の演技やドキュメンタリーな内容が興味深くて、観て良かったと思える作品でしたよ。
作品データ
●監督
白石和彌
●出演者
綾野剛
ピエール瀧
YOUNG DAIS
植野行雄(デニス)
中村獅童
●日本公開年
2016年
●上映時間
135分