ゴジラは脇役の人間ドラマ【映画レビュー】『シン・ゴジラ』あらすじ&感想(ネタバレ無し)
2017/06/13
TSUTAYA DISCASのレンタルDVDで映画『シン・ゴジラ』を観たので、その鑑賞記録です。
画像:映画.comより
あらすじ
ある日、東京湾を漂流する一隻のクルーザーを発見した海上保安庁は中を調査しますが、人影は無くテーブルには何かの調査資料のようなモノと折鶴が1つ。
後にそれらは科学者の牧悟郎の残したものと分かりますが、「私は好きした、君たちも好きにしろ」という遺書とも取れるメッセージや、床に揃えて置かれた靴などから彼は自殺したのではないかと推測されました。
同じ頃、海底では謎の水蒸気爆発が起こり、その影響で東京湾アクアラインではトンネルの崩落事故が発生。
報告を受けた官邸では災害発生の対応として、総理の大河内(大杉漣)を筆頭に関係各省庁の大臣や関係者が集まって緊急会議が開かれます。
そこで、某国の潜水艦の存在など様々な原因を検討した結果、可能性は低いながらも海底火山による影響ではないかと結論づける中、内閣官房副長官の矢口蘭堂(長谷川博己)だけは一人異議を唱えます。
画像:インターネット・ムービー・データベースより
彼はネット上で、不明の生物の大きな尻尾のようなモノが映った動画を見て、謎の巨大生物の存在を主張したのです。
他の全員は非現実的だと一笑に付しますが、そのとき緊急連絡を受けた内閣官房長官がすぐにつけるよう指示したテレビ画面には、矢口が主張した巨大生物の姿が。
画像:インターネット・ムービー・データベースより
慌てる政府を尻目に、その巨大不明生物は東京湾から多摩川河口に入り、そのまま大田区の呑川を蒲田へ向かって、船や河川敷を弾き飛ばすように壊しながら進んで行きます。
前例のない事態に参考となる意見を求めて、環境省から野生生物の専門家として急遽呼び出された尾頭ヒロミ(市川実日子)は、ネットの動画から上陸の可能性を示唆。
しかし他の学者による、上陸すれば自重を支えきれず潰れて死ぬとの意見のほうが希望的観測を望む政治家にとって都合が良いため、そちらの説のほうが有力と判断されます。
さらにパニックを懸念した総理は、すぐさま会見を開いて「上陸はありえないので安心するように」との声明を出しますが、直後に巨大不明生物は尾頭の意見のとおり蒲田へ上陸。
その姿は、ギョロリとした目に大きな口、喉の辺りにはエラを持ちながら前足のような突起と大きな後足とを持っており、まるで不気味な両生類のようでした。
画像:インターネット・ムービー・データベースより
しかもそれは上陸後も進行を止めることなく、後足を使って這いずるようにして道路やビルを破壊しつつ、都心へ向かって品川方面へと移動していきます。
国内での武器の使用をためらい、散々逡巡したあげくに政府はようやくこれを害獣による災害とみなし、自衛隊を派遣し武力行使によって駆除することを決定。
ところが、その間にも巨大不明生物は短時間の内にみるみると進化を遂げ、上体を起こすようにして二本足で立ち上がり、前足も形を整えて体長まで大きくなって二足歩行で進行を始めます。
ここでようやく、到着した自衛隊のヘリが攻撃をしようとしますが、逃げ遅れた民間人が発見されて作戦は中止。
首都東京は、巨大不明生物によって蹂躙されるまま、なす術もないといった状況の中、事態は急変します。
体を燃えるように真っ赤に染めた巨大不明生物は、突然大きく咆哮を上げて倒れるように体を横たえ、再び這うようにして今度は東京湾へと進路を変えてそのまま海中へ。
画像:インターネット・ムービー・データベースより
100名以上の死傷者と見渡す限りの瓦礫の山を築きながら、正体不明のまま姿を消した巨大不明生物に、ひとまずホッと安堵の息を漏らす政府関係者でしたが、もちろん事態はこれで終わったわけではありませんでした。
またいつ、あの巨大不明生物が再び上陸してくるか?
その対応のため政府は、矢口を中心として有能な各専門家を集め、「巨大不明生物特設災害対策本部(通称:巨災対)」を設置するのでした。
画像:インターネット・ムービー・データベースより
感想
1954年に第1回作品が作られてから60年以上が経ち、これまで国内外を含めて数々の『ゴジラ』作品が生み出されてきましたが。
本家の東宝作品としては第29作目となる『ゴジラ』シリーズの最新作でして、これまで28本も作られてきたんだと思うと改めてゴジラの人気ぶりに感心してしまいますが。
本作の公開時はそれはもうスゴい評判で、面白いのは「発声可能上映会」なんてものまで開催されて、コスプレありコールあり歓声ありサイリウムあり等といった観客参加型の上映会だったらしく。
しかも、そのチケットは発売後一瞬にして売り切れになったという人気ぶりで、私も行ってみたかった気がしないでもなかったり。
とにかく実のところ私は、この『シン・ゴジラ』を劇場では観てなくて、今回ようやくDVDで観ることができたんですよね。
それで観る前は、やっぱり『ゴジラ』ですから怪獣映画として期待して観たんですよ。
ところがこれが、まったく怪獣映画ではなくて、完全なる人間ドラマといった内容の映画でビックリしてしまいました。
もちろんゴジラが登場して暴れまわるという意味では怪獣映画なんですが、その描くところの本筋は現れたゴジラに対応する人間の様子を描いた物語だったんですね。
ですから初めに抱いていた期待というのは完全に裏切られたわけなんですが、だからといって面白くなかったのかというと、いゃいゃコレが実に面白かったんですよ。
2時間近い作品時間がまったく長く感じられなくて、アッという間に思えたテンポの良さも評価すべきでしょうが、その予想外のストーリーも良かったと言えます。
この『シン・ゴジラ』は、矢口蘭堂が主人公と言っても間違いではありませんが、実際には彼というよりも、彼を中心にした大勢の人物がすべて主人公と言える物語になってます。
つまり、本作にはヒーローと呼ぶべき一個人はいません。
これがハリウッド映画だったりすると、怪獣が出てきて、それに立ち向かう海兵隊だの軍隊だのが登場して、その中のヒーロー的な個人が大活躍して怪獣退治してハッピーエンドといった流れになるのでしょうが。
『シン・ゴジラ』は、まさにこれこそ日本映画といった、日本人の日本人による日本人のための、日本らしい展開でゴジラを迎え撃ちます。
本作でゴジラを倒すのは、けっきょくのところヒーローではなく官僚を中心とした政府とその支援者たちなんですね。
矢口も日本政府の官僚として国を守るべく自分の職務を全うしているだけで、もちろんそこに情熱はあるんですが、それはアメリカン・ヒーローに典型的な「怪獣をやっつけてやる」といった単純な思考ではありません。
そこには、日本の国土と国民を守るのが自分の努めであるという、官僚としての責任感と職務に対する忠実さと、信念に基づく使命感があるんです。
何だかこう書くと日本の官僚を賛美したプロパガンダ映画のように感じられそうですが、そうではなくて、つまり矢口は仕事に情熱を傾ける日本人というキャラクターを代表して描かれてるわけでして。
最近人気のTVドラマでもそうですが、けっきょく日本人というのは何だかんだ言って仕事に打ち込む人の姿に感動を覚える人種なんですね。
そして本作においては、官僚としての仕事に全力を傾ける矢口と、彼に共感して命がけで協力する人たちの人間ドラマに対して、日本人としての我々は感動や面白さを感じるんだと思います。
その意味で、『シン・ゴジラ』はとても日本的な映画だと思うし、これは日本ではヒットしても海外では評価されないだろうなと予想したんですが。
なぜか、他のアジア各国はまだしも、まさかのアメリカでもヒットしたんだそうで、日本人の感性が他の国でどう理解されたのかが非常に不思議で。
特に石原さとみが演じた、生粋のアメリカ人として登場しながら英語がつたないカヨコ・アン・パタースンなんかは、いったいどう受け入れられたのかが謎で仕方がないところですが。
会議の前には必ず根回しと申し合わせをして、ようやく本会議になるという、会議のための会議をやるような政治の仕組みなんかは日本だけでないのかも知れませんし。
加えて、オタク気質の日本人を描いたシーンなんかは、日本以外の人たちから作品への共感を得る助けの一つになったのかも知れませんね。
とにかく、そんな感じで怪獣よりも人間を中心に描いた話なんで、ゴジラが退治される様子も、とても静かと言うか地味でして。
天才科学者が開発した巨大ロボットも、最先端の技術を駆使したビーム砲も出てきませんし、やられるゴジラも爆発したり燃えたりドロドロに溶けてしまったりという結末にはなりません。
もちろん「ヤシオリ作戦(日本神話でヤマタノオロチを退治する際に使われたお酒の名になぞらえて付けられた作戦名)」というゴジラ退治のための作戦は、ある程度の派手さや盛り上がりを感じさせますが。
最終的にゴジラは実に静かに、ひっそりと退治されます。
そんな、いわゆる怪獣映画ではない『ゴジラ』なんで、それでは怪獣としてのゴジラの魅力や迫力は感じられないのかというと、決してそんなことはないんですね。
本作では着ぐるみではなくフルCGを使ってまして、ゴジラの登場から結末を迎えるまで、いろんな形をしたゴジラを目にすることができるんですが、そのどれもがスゴい迫力なんですよ。
さらにゴジラ自体はもちろんのこと、破壊される街や河川やビルや家屋や車や、そのほかいろんなものが、あまりに現実感があり過ぎて、とてもCGとは思えないほどで。
実際、私は日本のCG技術がこれほど進んでいるとは知らなくて、そのリアルさに圧倒されっぱなしでした。
しかも、そんな迫力あるシーンに使われるBGMが、さすが庵野監督と言うべきか、あのエヴァンゲリオンの音楽をそのまま使ってたりしてエヴァファンは胸熱必至。
そしてゴジラ登場に際しては、『ゴジラ』1作目のBGMをそのまま使用するという演出も良かったですね。
ついでに言うと登場人物も、意外なところに意外な役者さんが出てくるのも面白かったです。
アクアラインで避難する前田敦子さんとか、消防隊の小出恵介さんとか、自衛隊の斎藤工さんといった若手の人気俳優さんや、他にも有名な役者さんや映画監督さんたちが一瞬のシーンだけのために起用されたりしてるんですよ。
そういったチョットした遊びのある部分も含めて、いろいろと楽しめる良い作品だと思いましたね。
やっぱり劇場の大画面で観たほうが良かったかなという後悔も若干ありますが、家庭のTV画面で観ても十分に面白かったので、まだ観てない方は是非DVDなどでの鑑賞をオススメしますよ。
しかしNHK紅白にまでコラボされた映画なのに、その名セリフ「まずは君が落ち着け」が流行語大賞にノミネートさえされなかったのが本作に関しての一番の謎。
作品データ
●監督
庵野秀明
樋口真嗣
●出演者
長谷川博己
石原さとみ
大杉漣
市川実日子
●日本公開年
2016年
●上映時間
119分