独特の空気感のコント【映画レビュー】『ジヌよさらば‐かむろば村へ』あらすじ&感想(ネタバレ無し)
2020/04/02
TSUTAYA DISCASのDVDレンタルで映画『ジヌよさらば‐かむろば村へ』を観たので、その鑑賞記録です。
画像:映画.comより
あらすじ
かむろば村の隣町にあるバス停のベンチに、女子高生の青葉(二階堂ふみ)とアロハを着たチンピラ風の男が座っています。
二人はどうやら、付き合っているようでした。
そこへ、キャリーバッグやリュックなど大荷物を持った高見武晴(松田龍平)がやって来ます。
ベンチの二人とは少し距離を取って、ボンヤリと立ったままバスを待つ高見でしたが、そんな彼にチンピラ風の男が絡んできて困った状態に。
しかし、そこへタイミング良く到着したバスから降りてきた運転手(阿部サダヲ)が、高見に絡んでいた男を睨みつけて追い払ってくれます。
高見のことを知っているらしい、その男が高見に差し出した名刺には、「かむろば村 村長 天野与三郎」とありました。
画像:映画『ジヌよさらば‐かむろば村へ』公式Facebookより
どうやら村長の天野自らがバスを運転して、村民のためにアチコチヘ送り迎えをしているようです。
天野は、高見の荷物を乱暴に放り込むようにバスへ入れ、彼を乗せるとバスを発車させました。
小さなマイクロバスの中は、天野と高見以外は年寄り達で一杯です。
人口約500人のかむろば村は、40%の200人ほどが65歳以上の老人で「限界集落」寸前。
しかも病院も警察も郵便局も無いという不便を絵に描いたような東北の寒村でしたが、実は高見はそんなかむろば村に古い家を買って、東京から移住してきたのでした。
年寄りたちを送り届けたバスは、いったん天野の家に立ち寄ります。
そこでは小さなコンビニ程度の大きさのスーパーマーケットを営業していて、天野の奥さんの亜希子(松たか子)が働いていました。
画像:映画『ジヌよさらば‐かむろば村へ』公式Facebookより
亜希子は高見にビニール袋一杯の食料を持たせてやりますが、高見はお金を持っていないと言って断ろうとします。
「ツケでいいよ」と言って半ば無理やりに袋を持たせると、天野は再びバスを走らせて彼を家まで送ってやるのでした。
帰りがけに携帯の番号を聞く天野でしたが、高見は携帯は捨てたと答えます。
こんな田舎で電話も無しに電力会社にどうやって連絡取るつもりだと、あきれて話を聞いてみると、電気もガスも使うつもりは無いし水は井戸を掘るから大丈夫だと言い張る高見。
画像:映画『ジヌよさらば‐かむろば村へ』公式Facebookより
なんでも彼は、お金を使わず自給自足の生活をするために、この村に移り住むことにしたのだ言うのです。
囲炉裏の薪だってお金が無いと買えないのに夜はどうするんだとさらに聞くと、尋常じゃない程のヒートテックを持ってきたから大丈夫だと平然と答える高見に、すっかり説得する気も失せた天野は、
「こっちの冷え込み、ナメんなよ。ヒートテックの力、見せてもらおでねぇの!」
と言い捨てて、帰ってしまいました。
果たして、高見はナゼお金を使わない生活を求めてこの村へやって来たのか。
これから彼の村での生活は、どうなっていくのでしょうか。
感想
漫画『かむろば村へ』(作:いがらしみきお)を原作とした映画で、私は読んだこと無いんですが原作とはかなり異なったテイストで作られた作品とのこと。
「ジヌ」というのは「ぜに」のなまった言葉で、つまり「銭」=「お金」ということです。
タイトルの「ジヌよさらば」というのは、作中で主人公が実際に口にする言葉で、主人公はお金を一切使わずに生活するために「かむろば村」へと移住してきまして。
とはいえ主人公とお金との関係は、本作では単なるエッセンスに過ぎず、実際のストーリーはそれとは別の部分で展開してラストへと突き進んでいくのですが。
これが、松尾スズキワールドというんでしょうか?
コメディと言うかコントと言うか、くすぐりやギャグがちりばめられながらも、西田敏行の演じる神様なんかが出てきてファンタジー的な要素も感じられます。
こういうテイストが好きな人はハマると思うんですが、まったく受け付けないという人も多そうな気もしますね。
松田龍平さん演じる主人公の高見は、茫洋とした雰囲気で、人に親切にしてもらってもお礼の言葉さえロクに言わないような、変な感じのヤツで。
「お金アレルギー」というか、「お金恐怖症」というほうが正しいと思うんですが、それさえ病気というよりも単なる思い込み程度のものなんじゃないでしょうか。
実際、映画の後半では平気でお札に触ったりしてますし。
しかも簡単に性欲が理性を越えたりして、どこか怖いと言うか、身近にいても絶対に友達にはなりたくないタイプですよ。
「かむろば村」のほかの住人達も、何だか薄気味の悪い連中ばかりです。
セリフの無い、ただ登場しているだけのお年寄り達でさえ、一癖も二癖もありそうな雰囲気。
そんな、笑えるけれども気味の悪さも感じるような世界観を独特なキャラクターの役者陣が演じてまして、知らず知らずの内に引き込まれてしまいましたね。
松田龍平さんは、いつものあの不気味な印象を醸し出しつつ、飄々とした様子を演じているところは安定の上手さで。
そして阿部サダヲさんも、善人感がありながら何だか分からない凶暴性も感じさせてて良いんですが。
とりわけ私が面白いと思ったのが、松たか子さんですね。
登場人物の中では一番の普通らしさがありつつ、それでもどこか何かがズレてるというかはずれてるような、違和感のあるキャラクターを絶妙に演じてますよ。
さらには不思議な色気も漂わせるところは、役者の演技のたまものか、あるいは演出の妙なのか。
とにかく、ストレートなギャグと不条理な笑いの両方を受け止めることができて、異質さを感じさせる空気やキャラクターに嫌悪感を感じない人なら楽しめる映画ではないかと。
それから、二階堂ふみさんが女子高生のミニスカ制服姿でパンチラしてますので、女子高生のパンツを見たいという煩悩をお持ちの方にもおすすめでしょう。
作品データ
●監督・脚本
松尾スズキ
●出演者
松田龍平
阿部サダヲ
松たか子
二階堂ふみ
西田敏行
●日本公開年
2015年
●上映時間
121分